理事長就任ご挨拶
北里大学部循環器内科学・教授
和泉 徹
私は、この度皆様方のご推挙により、日本心臓リハビリテーション学会理事長を拝命することとなりました。初代理事長 戸嶋裕徳 先生からはじまり、二代目 村山正博 先生、三代目 斉藤宗靖 先生が築かれた地平と業績の大きさを改めて噛み締め、敬意を表しますとともに、これを守り、発展させていく責任の重さを感じております。と同時に、3000名にも達しようとする会員諸氏が日夜結集し、わが国の心臓リハビリテーションの普及と発展に溌剌とした活動と成果をもたらしつつあるこの時期に理事長を担当させて頂くことを大変光栄に感じています。
さて、今世紀に入ってからの医療は20世紀までの営みとは本質的に異なりはじめています。また今後は大きく異なっていくことでしょう。試行錯誤を重ねながら、人類は19世紀になって永く夢見た長寿社会への突破口に辿りつきました。まずスカンジナビアの国々が、次いでオセニアの人々が地域社会の規模で長寿者を排出し始めましたのです。興味深いことは、20世紀後半になって世界で最も早く、しかも一億二千万人の一国として長寿社会に到達したのは、何と、我が国であります。あの第二次世界大戦によって人口学的に壊滅状態を被りながら、世界のトップランナーとして長寿国家へと変身したのです。全く予期されなかったアウトカムと申せましょう。省みると、1980年代後半から我が国は本格的な長寿社会を迎えました。この成果は主に日本女性によって達成されています。流れは衰えることなく続いており、21世紀の前四半期まで確実にリーディング カントリーとして推移するでしょう。2004年の厚生統計を参照すると、女性で85.59歳、男性で78.64歳の余命期待年数が記録されています。我が国において百寿者が未だ少ない頃には、担い手は選り抜かれたスーパーウーマンやスーパーマンでした。しかし、長寿社会が20年も経過すると、極普通の日本人が百寿者になってきています。従って反面として、長寿社会が成熟すればするほど、高齢者は元気な長命者ばかりではなくなってきます。長寿社会の影は要介護者数の急増です。多数の要介護者は複雑な患者負担のみならず、家族負担、そして社会的負担を指数関数的に量産します。現在、すでに我が国は400万人以上の要介護者を抱えたと推定されています。要介護者に発生する負担をどう軽減していくのか、これは新たな医療課題であり、国家的のみならず地球規模の人間的な到達目標でもあります。この問題の解決には、医学・医療の観点に加えて、経済・社会学は言うに及ばず、環境・生物学的な要因も視野に入れておかねばなりません。私は、心臓リハビリテーション担当者はまさにこの問題に切実に接するフロントに位置していると主張してきたひとりです。
心血管病患者は、心肺危機を救命救急やカテーテル診療、あるいは開心術などで何とか乗り越え、そして家庭や社会復帰が視野に入ってきた頃、自分にまとわりついている多数の基礎疾患がリハビリテーションの障害として立ちはだかっていることに気づきます。如何に対応し、如何に克服し、“元気さ”や“活力”を取り戻すか、患者も心臓リハビリテーション担当者も悩みます。老化、動脈硬化、高血圧、ニコチン依存症、糖尿病、呼吸不全、腎不全、脳・神経障害はもとより、難聴、視力低下、噛咬不全、関節症、前立腺症など心不全患者の臨床像は極めて多彩です。多数、多彩、難解、難治が心臓リハビリテーション対象患者の特徴とも言えましょう。さらに、この傾向はますます今後深化していくことでしょう。従って、心臓リハビリテーションの学術活動の方向性は方策や装備、運用の在り方から、すでに新しい局面へ進んでいると考えます。心筋梗塞や狭心症、あるいは弁膜症や心臓奇形患者のように単一臓器の単一病変への対応が主要なテーマになるのではなく、多疾患有病者の長寿社会への復帰、さらには一元的包括管理による二次予防活動が課題になっているとの指摘です。多疾患有病者は加齢とともに多数・多彩・難解・難治の度合いが増していきます。従って、活力に満ちた長寿人生を全うするには、多疾患有病者の一元包括管理による心臓リハビリテーション活動が求められているのです。この活動は、患者個人はもとより、家庭や社会の負担を軽減するものでなければなりません。
私の任期中、斉藤前理事長の路線をしっかり継承するとともに、患者負担を軽減できる心臓リハビリテーションの意味内容を高める学会活動を推進していきたいと切望しております。また、そのための学会の在り方を模索していきたいと考えております。是非、学会員の皆様におかれましては、私の意のあるところを正しくご理解くださり、ご支援・ご助言くださいますように心からお願い申し上げます。
以上